『ずんが島漂流記』

目黒次は、『ずんが島漂流記』です。1999年3月に文藝春秋から本になって、2002年7月に文春文庫と。ただ、どこに書いた作品なのか、単行本にも記載がない。文春の雑誌に書いたの?

椎名記憶が曖昧だけど、公明新聞に書いたんじゃなかったかなあ。それを忘れちゃったんだ。記載するのを。

目黒『バリ島横恋慕』にも何の記載もなかったから、あなたの本では珍しいことではないんですが。

椎名そうだな。

目黒これは意外に面白かった。実は読むのは今回が初めて。なんとなく、つまんないんじゃないかなあって勝手に思ってたことを反省します(笑)。何がいいかというと、構成がいいんだ。

椎名構成?

目黒題名から推察できるよね。漂流して、無人島に漂着して、そしてサバイバルしていく話だなと想像できる。椎名は読者としてそういう話を好きだから、今度は自分で書いたんだなと。ところが、そうではないんですね。いや、その通りに漂流して、島に漂着もするんだけど、そこで終わらない。その島を出て、また別の島へも行っちゃう。結構物語は激しく動き続けている。何か静かなトーンが続いているなあと思うと、新しい出来事が起こる。たぶん、先のことなどまったく考えずに書いたんだろうけど(笑)、奇跡的に構成がうまくいっている。

椎名行き当たりばったりだからな。

目黒プロットをきちんと作らないと、ぐしゃぐしゃになるケースが少なくないんだけど、これは奇跡的に成功している(笑)。しかもディテールもいいよね。まず、ぼうぼうぼうと鳴く巨鳥。最初は食料にしようと思って近づくんだけど、あまりに懐いてくるんで食べられなくなり、仲間になるのがいいよ。ユーモラスだよね。それにずっと仲良しのままだと、次に島を出るときに一緒に連れていくことになるから大変で、どうするのかなと思ったら、自然な感じで離反していく。このあたりの処置もうまい。たぶん、行き当たりばったりだとは思うけど(笑)。

椎名深くは考えない(笑)。

目黒魚人間や鳥人間が出てきて、ファンタジックな展開になっても、それが物語から浮き上がらず、自然に溶け込んでいるのもいい。特に、鳥人間が松明を持って空を舞うシーンは美しい。すごいね、絶賛だよ(笑)。

椎名これは何かね。少年小説?

目黒少年3人と少女1人の4人が、幻の「歩く魚」を探して旅に出る話だから、少年小説といっていいでしょうね。文庫版の解説を神宮輝夫さんに依頼しているのも編集部がこの作品を児童文学として位置づけたいとの気持ちの現れかもしれない。

椎名なるほどね。

目黒冒頭に、おじいちゃんが出てきて、「ぼく」がおじいちゃんの話を聞くという体裁もいい。これは、昔のイギリス冒険小説のかたちだよね。そうやって死の淵から生還してきた人間が、特異な体験を語りだすというのが冒険小説の最初のかたちだったから、そのパターンをここでもきちんと継承している。こんなにいいとは思っていなかった。本当に反省しています(笑)。

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